「じぶんとかないから」表紙

『自分とかないから – 教養としての東洋哲学』(しんめいP)

ある日、夜のパーティーまでの時間を潰すために本屋に立ち寄った私は、思いがけない本との出会いを果たしました。立ち読みをしていると、その本があまりにも面白く、思わず声を出して笑いそうになり、慌てて購入することにしたのです。

この本は、東洋哲学のターニングポイントとなった6人の哲学者の思想を、驚くほど簡単に、かつ砕けた文体で紹介しているものでした。さらに特徴的だったのは、AIを使って生成したややいい加減な(失礼ながら)イラストが添えられていたことです。これらの要素が相まって、難解と思われがちな東洋哲学を、驚くほど親しみやすいものにしていました。

私自身、大学時代の一般教養で東洋哲学の講義を受けましたが、その時は難しくて辟易した記憶しかなく、それ以来長らくこの分野に近づかずにいました。しかし、この本は東洋哲学についての知識がゼロの人でも十分に理解できる内容になっており、私のような東洋哲学に苦手意識を持つ人にとっても、非常に有益な一冊でした。

6人の哲学者とその思想

ブッタ:仏教の開祖

ブッタの教えの核心は「本当の自分はない」という「無我」の概念です。これは、自分というものが実は妄想でしかなく、世の中のすべてが変わっていく中の一部でしかないということを意味します。
ブッタはもともと王子として生まれた社会的エリートであり、その教えそのものも非常に難解でした。そのため、後世の哲学者たちによって、その教えはより分かりやすい形で解釈され、広められることになります。

龍樹:ブッタの教えを簡潔に表現した哲学者

龍樹は、ブッタの複雑な教えを一言で表現しました。それが「この世界はすべて空(=フィクション)である」という考え方です。この「空」の概念を理解するために、本書では身近な例が挙げられています。
例えば、学校のクラスを考えてみましょう。クラスは4月に突然できて、翌年の3月に消滅します。翌年の春には何も残らず、「空」になります。また、ディズニーランドのシンデレラ城も、ディズニーという会社がなければ、ただのコンクリートの塊に過ぎません。ディズニーランドが「夢の国」と呼ばれるのは、まさにそれがフィクションだからなのです。
龍樹の教えによれば、世の中のものはすべて「空」であり、すべてはつながっているものなのです。そして、「自分なんて無い」のだから、悩むこと自体がナンセンスだということになります。

老子と荘子:道家思想の創始者

中国の老子と荘子は、老荘思想と呼ばれる哲学を説きました。彼らの中心概念は「道」です。「道」とは「宇宙を生み出す根源の力」を指します。
「空」の概念が現実世界の価値観を否定するのに対し、「道」の考え方は現実世界でどのように生きるべきかも教えてくれます。その教えは簡単に言えば「ありのままでいろ」ということです。
さらに、老荘思想では「最も柔らかいものが、世界を制する」と説きます。これは、力ずくで物事を進めるのではなく、柔軟に対応することの重要性を示しています。この考え方は日本の武道にも影響を与えており、例えば「柔道」という名称も、おそらくここから来ていると考えられます。

達磨:禅の開祖

「禅」は、達磨が開いた中国由来の仏教です。禅の教えを一言で表すと「考えるな感じろ」となります。これは、言葉や思考で物事を理解しようとするのではなく、直接的な体験を通じて真理を掴むことの重要性を説いています。
例えば、自分がダメだと思った時、それは「空」の世界に入れていない状態だと禅では考えます。そのような時には、座禅を組むことで、「考えずに感じる」ことが大切だと教えています。

親鸞:日本仏教の革新者

親鸞は、日本の仏教に革命をもたらした人物です。本書では、それまでの仏教をクラシック音楽に例えるなら、親鸞の仏教はヒップホップのようなものだと表現しています。
親鸞の教えの特徴は、「修行するほど、悟りから遠ざかる」というものです。つまり、複雑な修行や儀式は必要なく、ただ信じること、「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えることだけで十分だと説きました。そうすることで、「空」の境地は自然とやってくるのだと教えたのです。

空海:日本仏教の天才

空海は、日本人の中でも歴代最高の天才の一人と評される人物です。彼の思想は、それまでの仏教思想をさらに発展させたものでした。
禅が「本当の自分なんてない=空」と説くのに対し、空海はその先にある生命の神秘を見出しました。彼は、曼荼羅に描かれた大日如来こそが、私たち一人一人の本質であると説きました。
空海の教えによれば、境界線のない仏教の世界では、大日如来が自分自身であるなら、大日如来と同じポーズ、同じ言葉、同じ心を持つことで「即身成仏」、つまりこの世でそのまま仏になることができるのです。

まとめ

この本を読み終えた後、最も印象に残ったのは「東洋哲学はラクになるための哲学」という著者の主張でした。確かに、これらの哲学者たちの教えを振り返ってみると、その核心には人生をより楽に、より自由に生きるためのヒントが含まれていることに気づきます。

例えば、ブッタの「無我」の考え方は、自我にとらわれすぎることの無意味さを教えてくれます。龍樹の「空」の概念は、世の中のあらゆるものが一時的で変化するものだと理解することで、執着から解放されることを示唆しています。

老子と荘子の「道」の思想は、自然の流れに逆らわず、ありのままの自分でいることの重要性を説いています。これは、無理に自分を変えようとしたり、他人と比較して悩んだりすることからの解放を意味します。

達磨の禅の教えは、過度に物事を分析したり考えすぎたりすることの無駄を指摘し、直感的な理解の重要性を強調しています。親鸞の思想は、複雑な修行や儀式よりも、単純に信じることの力を説いています。そして空海の即身成仏の考え方は、私たち一人一人が本質的に偉大な存在であることを示唆しています。

これらの教えは、それぞれ異なる角度から、人生をより楽に、より深く生きるための知恵を提供しているのです。

結論:哲学書入門として

この本は、東洋哲学の入門書として非常に優れています。難解な概念を身近な例えを用いて説明し、ユーモアを交えた文体とAI生成のイラストを使用することで、読者の興味を引き付けながら理解を深めることに成功しています。

私自身、大学時代にこの本があれば、一般教養の東洋哲学の授業ももっと理解しやすく、興味深いものになっただろうと感じました。この本は、東洋哲学に対する敷居を大きく下げ、より多くの人々がこの深遠な思想体系にアクセスできるようにしています。

最後に、この本の真の価値は、単に東洋哲学の知識を提供するだけでなく、読者に自分自身の人生や存在について深く考えるきっかけを与えることにあります。「ラクになるための哲学」という視点は、現代社会を生きる私たちにとって、非常に示唆に富んだものだと言えるでしょう。

東洋哲学は、単なる学問的な探求の対象ではなく、日々の生活の中で実践し、人生をより豊かにするための道具として捉えることができます。この本は、そのような東洋哲学の実践的な側面を、わかりやすく、そして楽しく紹介することができています。

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