2冊の本との出会いと問題意識
先日、山口周氏の「ニュータイプの時代」と「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか」という2冊の著書を読み、ウェブ制作業界に携わる者として深い衝撃を受けました。
私は長年、「見た目だけのサイトではなく、顧客の課題を解決するサイトを作りたい」という思いでウェブ解析士の資格を取得し、データドリブンなアプローチを学んできました。しかし、この2冊を読んで気づいたのは、現代のウェブ制作に求められているのは、単なる問題解決力ではなく、「問題を発見し、提起する力」だということです。
従来のウェブ制作の限界:「正解を求める力」の価値低下
山口周氏は「ニュータイプの時代」の中で、「これまでのMBAなどで培われた『正解を求める力』は価値がなくなっていく」と述べています。この指摘は、ウェブ制作業界にも強く当てはまります。
従来のウェブ制作アプローチの問題点:
- 「どうやってSEOで上位表示するか?」
- 「どうやってコンバージョン率を上げるか?」
- 「競合他社と同じような機能を実装するには?」
これらはすべて「既存の問題への正解探し」に過ぎません。
多くのホームページ制作会社は、クライアントから「こういうサイトを作ってほしい」と言われれば、そのまま制作に取りかかります。しかし、本当に重要なのは「なぜそのサイトが必要なのか?」「本当の課題は何なのか?」を深く掘り下げることなのです。
新時代に求められる「問題発見力」と「真善美」
「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか」では、「新しい問題を見出し提起する力に真善美が必要」と説かれています。この「真善美」の概念を、ウェブ制作に当てはめて考えてみましょう。
| 要素 | ウェブ制作における意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| 真(Truth) | データが示す客観的事実 | アクセス解析、ユーザー行動データ、市場調査結果 |
| 善(Good) | 社会的価値、顧客の本質的利益 | ユーザビリティ向上、情報アクセシビリティ、社会貢献 |
| 美(Beauty) | 感性的な魅力、直感的な使いやすさ | 視覚的デザイン、ユーザーエクスペリエンス、ブランド表現 |
従来のウェブ制作では「真」の部分、つまりデータ分析に重点が置かれがちでした。しかし、本当に競争力のあるサイトを作るには、この3つの要素すべてを統合した視点が必要なのです。
ウェブ制作における「美意識」の実践的価値
4.1 問題発見の実際の事例
あるクライアントから「競合他社のようなサイトを作ってほしい」という依頼がありました。数値的には優秀なサイトでしたが、何か違和感を覚えました。詳しく分析すると、そのサイトは確かにアクセス数は多いものの、実際の成約率が低く、ブランドイメージも曖昧でした。
結果として、競合とは全く異なるアプローチで「信頼性」を前面に押し出したデザインを提案し、大幅な成果改善を実現できました。
4.2 美意識による課題発見のプロセス
「美意識」とは、単に見た目を美しくすることではありません。以下のような総合的な判断力を指します:
- 直感的な違和感の察知:数字では分からない「何かおかしい」という感覚
- ユーザー視点での共感力:使う人の立場に立った使いやすさの追求
- ブランド価値の表現力:企業の本質的価値を視覚的に伝える力
- 社会的文脈の理解:時代の流れや社会的要請への敏感さ
戦略分析から実装まで一気通貫の重要性
山口周氏の著書を読んで気づいたもう一つの重要な点は、「会社の課題を見つけ提案する力」の重要性です。そのためには、戦略的な分析手法が欠かせません。
5.1 戦略フレームワークの活用
ウェブサイト制作においても、以下のような分析手法を活用することで、真の課題を発見できます:
- 3C分析:自社・顧客・競合の関係性から差別化ポイントを発見
- PEST分析:政治・経済・社会・技術の観点から外部環境を把握
- ファイブフォース分析:業界構造を理解し、真の脅威と機会を特定
5.2 「伝言ゲーム」による価値の劣化を防ぐ
大手制作会社でよく起こる問題:
戦略コンサル → 分析レポート作成 → デザイナーに伝達 → コーダーに伝達 → 実装
この過程で、せっかくの戦略的洞察が薄れてしまうことが多々あります。
一方、戦略分析からデザイン・実装まで一気通貫で対応できれば、分析で発見した課題や洞察を100%サイトに反映できます。「なぜこの色なのか?」「なぜこのレイアウトなのか?」すべてに戦略的根拠を持たせることができるのです。
6. 中小企業がこのアプローチを活用する方法
6.1 制作パートナーの選び方
中小企業や商店のホームページ担当者の方には、以下の点でパートナーを選ぶことをお勧めします:
- 「作りたいものは何ですか?」ではなく「解決したい課題は何ですか?」と聞いてくる
- 競合分析や市場分析の提案がある
- デザインの根拠を明確に説明できる
- 制作後の成果測定や改善提案がある
6.2 社内での意識改革
意識改革の具体例:
- 「かっこいいサイトが欲しい」→「どんな印象を与えたいか?」
- 「競合と同じ機能が欲しい」→「うちならではの価値は何か?」
- 「とりあえず作り直したい」→「現状の何が問題なのか?」
6.3 段階的なアプローチ
限られた予算の中でも、以下のような段階的なアプローチで「美意識」を取り入れたウェブ制作が可能です:
- 第1段階:現状分析と課題の明確化
- 第2段階:競合分析と差別化ポイントの発見
- 第3段階:ユーザー視点でのサイト設計
- 第4段階:ブランド価値を反映したデザイン実装
- 第5段階:効果測定と継続的改善
7. まとめ:「見た目だけ」から「課題解決」へ
山口周氏の2冊の著書から学んだ最も重要な点は、問題解決から問題発見へのパラダイムシフトの必要性です。ウェブ制作においても、この変化は避けて通れません。
従来の「見た目だけ」「機能だけ」のアプローチから、「真善美」を統合した総合的な課題解決アプローチへ。これこそが、新時代のウェブ制作に求められる「美意識」なのです。
新時代のウェブ制作に必要な要素:
- 戦略的思考による課題発見力
- データと直感を統合した判断力
- ユーザーと社会に価値を提供する視点
- 美的センスによる感性的表現力
- 分析から実装まで一気通貫の実行力
中小企業や商店の皆様も、この新しいアプローチを取り入れることで、単なる「会社案内サイト」を超えた、真の「ビジネス成長パートナー」としてのウェブサイトを手に入れることができるはずです。
重要なのは、「何を作るか」ではなく「なぜ作るか」「どんな課題を解決するか」を明確にすること。そして、その答えを「美しく」表現することなのです。




