この記事を最初に書いたのは2025年の秋でした。当時はVS Code、Cursor、ChatGPT、Genspark、NotebookLMと、目的ごとに5つ以上のツールを行き来していました。
あれから1年近く経ちました。いま、WordPress制作の現場でいちばん長い時間を一緒に過ごしているのは、Claudeです。
ツールが増えたのではなく、減りました。この記事では、なぜ減ったのか、いま何をどう使っているのかを、2026年8月時点の実際の制作フローとしてお伝えします。
「AIツールを使ってみたいけれど、何から始めればいいか分からない」という方は、この記事の最初のセクションだけ読んでいただければ十分です。
先に結論:1年使って、Claude中心の形に落ち着きました
先に結論をお伝えします。2026年8月現在、私がWordPress制作で使っているAIツールは、実質的に次の3つです。
- Claude(設計・戦略・調査・文章)
- Claude Code(実装・リファクタリング・自動化)
- Cursor(既存コードのピンポイント修正)
1年前と比べて、ツールの数は半分以下になりました。
なぜ減ったのか。理由ははっきりしていて、ツールを切り替えるたびに「文脈」を渡し直すコストが、想像以上に大きかったからです。
たとえば「このお客様は士業で、ターゲットはこういう人で、サイトの目的はこれ」という前提を、ツールAで説明し、次にツールBでもう一度説明し、ツールCでまた説明する。この説明作業だけで、実作業と同じくらいの時間を使っていました。
ツールを絞ると、この受け渡しがなくなります。AIの性能差より、文脈が途切れないことのほうが、実際の仕事では効きました。
もちろん、これは「Claudeが一番優秀だから」という話ではありません。私の仕事の進め方に合っていたというだけです。読んでくださっている方が同じ結論になるとは限りません。大事なのは、ツールを増やす方向ではなく、絞る方向で考えたほうがいいという点です。
工程ごとに、どのAIをどう使っているか
ここからは、実際の制作の流れに沿ってお話しします。私がWordPressサイトを一本つくるとき、工程はだいたい次の順に進みます。
ヒアリング → ブランド設計 → 構成設計 → デザイン → 実装 → 計測設定 → 公開 → 運用改善
このうちAIを使っているのは、ブランド設計以降のほぼ全工程です。ただし工程ごとに、任せている範囲がまったく違います。
設計・戦略:Claude(ブラウザ版)
サイトの構成を決める段階では、ブラウザ版のClaudeを使っています。
具体的には、お客様のサイトと競合サイトを読み込ませたうえで、「この会社が同業と何が違うのか」「誰に向けて何を言うべきか」を一緒に整理していきます。ここで大事にしているのは、答えを出させないことです。
AIに「このサイトの強みは何ですか」と聞くと、それらしい答えが返ってきます。でもそれは、サイトに書いてあることを言い換えているだけであることが多い。書いてあることをまとめるのは得意ですが、書かれていない本当の強みは、AIには見えません。
だから私は、AIには「観点を出す係」をやってもらいます。「この業種で、お客様が比較検討するときに見ている項目を10個挙げて」といった使い方です。挙がった10個のうち、実際に効くのは2つか3つですが、その2つか3つを自分だけで思いつけるとは限りません。
実際にお客様と話すとき、私が持っていくのはAIの出した答えではなく、AIと一緒に洗い出した質問リストです。
実装:Claude Code
コードを書く工程は、Claude Codeに任せている範囲がいちばん広い部分です。
Claude Codeはターミナルから対話しながらコーディングを進められるツールで、既存のファイル構成を読んだうえで作業してくれます。ファイルを個別にコピー&ペーストして渡す必要がありません。これがWordPressのテーマ開発では効きます。
WordPressのテーマは、functions.php、テンプレート階層、テーマファイル、スタイルと、複数のファイルが関係し合って動いています。「この表示を直したい」という要望に対して、直すべき場所が1ファイルとは限りません。プロジェクト全体を見られるかどうかが、実務では大きな差になります。
私が主に任せているのは、次のような作業です。
- カスタム投稿タイプ、カスタムフィールドの実装
- ブロックテーマのテンプレートパーツの作成
- 引き継いだサイトの古いコードを現代的な書き方に更新する作業
- 表示速度に関わる読み込み順の整理
一方で、任せていない作業もはっきりしています。決済まわり、個人情報を扱う処理、権限管理。ここはAIに書かせません。書かせたとしても、必ず一行ずつ自分で読みます。理由は後半の「変えなかった原則」で説明します。
細かい修正:Cursor
Cursorは、いまも使い続けている数少ないツールのひとつです。
使いどころははっきりしていて、「ここを、こう直す」が既に自分の中で決まっているときです。ファイルを開いて、該当箇所を選択して、指示を出す。この距離の近さは、対話しながら進めるやり方より速い場面があります。
Cursorを使うときのコツは、1年前と変わりません。指示を具体的にすることです。「動きを追加して」ではなく、「ホバー時に0.3秒かけて透明度を80%から100%に変化させるアニメーションを追加して」と伝える。この差で、返ってくる結果の質がはっきり変わります。
調査:Claude + Genspark
調査は、Claudeで足りることがほとんどになりました。
ただ、大量の情報源を横断して整理したいときは、いまもGensparkを使います。たとえば競合10社のサイトを一気に比較したいとき、業界の統計を複数のソースから集めたいときです。
どちらを使う場合も、守っているルールがひとつあります。お客様に出す資料に入れる数字は、必ず一次情報源まで自分で確認する。AIが要約した数字をそのまま提案書に載せることは、絶対にしません。
これはウェブ解析士としての職業的な癖でもありますが、それ以上に、間違った数字で意思決定させてしまったときの取り返しがつかないからです。
運用の自動化:Claudeのスキル機能
2026年に入っていちばん変わったのが、この部分です。
Claudeには、繰り返し行う作業の手順をあらかじめ書いておき、必要なときに呼び出せる仕組みがあります。私はこれを使って、次のような作業を自動化しました。
- 毎朝のSEOモニタリング(GA4とSearch Consoleから数字を取得し、前日との差分だけをレポートにする)
- お客様のサイト診断レポートの生成
- 記事の下書きからWordPressへの投稿まで
たとえばSEOのモニタリングは、以前は毎朝30分ほどかけてGA4とSearch Consoleを見比べていました。いまは自動で走り、「前日から変わったことだけ」がまとまった状態で出てきます。
ここで大事なのは、AIが判断しているわけではないという点です。数字を集めて、前回との差分を出して、変化があった箇所を並べる。ここまでが自動化されている部分で、「その変化に意味があるのか」「だから何をするのか」を決めるのは、いまも私です。
この線引きは、お客様の仕事でもまったく同じです。作業は渡せますが、判断は渡せません。
WordPress特有の、AIが間違えやすいポイント
WordPressでAIにコードを書かせるとき、他の開発とは違う注意点があります。実際に私が引っかかった箇所を挙げます。
1. 古い書き方を提案してくることがある
WordPressは20年以上の歴史があり、ネット上には古い時代の情報が大量に残っています。AIはそれも学習しているので、すでに非推奨になった関数や、10年前の書き方を提案してくることがあります。動いてしまうので気づきにくいのが厄介です。
対策は単純で、「WordPress 6.x以降の推奨される書き方で」と指示に含めることです。それでも怪しいときは、公式のコードリファレンスで関数名を確認します。
2. ブロックテーマとクラシックテーマを混同する
いまのWordPressにはブロックテーマとクラシックテーマの2つの流儀があり、書き方がまったく違います。AIはこの2つを混ぜた提案をすることがあります。theme.jsonで指定すべきことをCSSで書いてきたり、その逆だったり。
対策は、最初に「これはブロックテーマです」と明示することです。当たり前のようですが、これを伝えないまま進めて手戻りした経験が何度もあります。
3. プラグインとの競合を考慮しない
AIはあなたのサイトに何のプラグインが入っているかを知りません。キャッシュ系プラグインとの相性、セキュリティ系プラグインによるブロックなどは、実際に動かしてみるまで分かりません。
実例として、私自身のサイトでHTTPヘッダーの設定をコードで追加しようとしたところ、キャッシュプラグインのほうが先に応答を返してしまい、まったく効きませんでした。結局.htaccessで書く形に変えて解決しています。AIが書いたコードが正しくても、環境が原因で効かないことがあるという典型例です。
4. 本番環境で試さない
これはAIの問題ではなく使う側の問題ですが、いちばん大事です。AIが提案したコードは、必ずステージング環境で試してください。「たぶん大丈夫」で本番に入れて白い画面になったとき、AIは責任を取ってくれません。
「AIでWordPressサイトが作れる」ツールとの違いは何か?
最近、「AIに指示するだけでWordPressサイトが完成する」というサービスをよく見かけるようになりました。ご相談の中でも「あれでいいのでは」と聞かれることが増えています。
正直にお答えします。ページを形にするところまでは、本当にできます。
指示を出すと、それらしいデザインの、それらしい文章が入ったサイトが数分で出てきます。技術的にはすごいことです。
では何が違うのか。私が思う違いは一点だけです。
「なぜそうしたのか」が残らないことです。
サイトの色を青にしたのはなぜか。トップページの最初にこの一文を置いたのはなぜか。問い合わせボタンをこの位置にしたのはなぜか。AIビルダーで作ったサイトには、この答えがありません。「AIがそう出したから」以上の理由がないからです。
これが問題になるのは、公開したあとです。
サイトは公開してからが本番で、数字を見ながら直していくことになります。そのとき、「なぜそうしたか」が残っていないサイトは、直す方向が決められません。問い合わせが増えないとき、色を変えるのか、文章を変えるのか、順番を変えるのか。仮説の立てようがないのです。
結果として、また最初から作り直すことになります。
逆に言えば、「とりあえず形にしたい」「予算をかけずに始めたい」という段階では、AIビルダーは合理的な選択です。開業したばかりで、まず名刺代わりのサイトが要る。そういう場面で数十万円をかける必要はないと思います。
分かれ目は、そのサイトで売上をつくるつもりがあるかどうかです。つくるつもりがあるなら、「なぜそうしたか」を残せる作り方を選んだほうが、結果的に安く済みます。
使わなくなったツールと、その理由
1年前に紹介していたツールのうち、いま使わなくなったものと、その理由を正直に書きます。
NotebookLM:FAQの作成に便利だと書きましたが、結局あまり使いませんでした。理由は、FAQづくりの本当に大変な部分が、文章化ではなく「何を載せるか決めること」だったからです。既存資料から自動生成しても、載せるべき質問が決まっていなければ意味がありません。いま同じ作業をするなら、お客様への実際の問い合わせメールを読み返すところから始めます。
Figma+Make:デザイン工程を変える可能性があると書きました。実際に触ってみて、初期案を素早く見せるという用途では確かに使えます。ただ、私の場合は制作前にブランド設計の工程を挟むため、そこで決めた方向性を反映させる手間のほうが大きくなりました。デザインを何案も出して選んでもらう進め方をされている方には合うと思います。
VS Code:使わなくなったわけではなく、単体で開いて作業する場面がほぼなくなったという表現が正確です。Claude Codeが同じディレクトリを見ているので、ファイルを確認するときに開くくらいになりました。
ChatGPT:やめたわけではありませんが、使用頻度は大きく下がりました。理由は前述のとおり、ツールを行き来する文脈の受け渡しコストを減らしたかったからです。性能の問題ではありません。
こうして並べてみると、やめた理由のほとんどが「性能が足りない」ではなく「自分の仕事の流れに合わなかった」であることが分かります。
ツールを選ぶときに参考にされる比較記事の多くは、性能を比べています。でも実務で効くのは、自分の仕事の順番に、そのツールが素直に乗るかどうかでした。
AIツールを使ううえで、変えなかった原則
ツールは入れ替わりましたが、使い方の原則は1年前から変わっていません。3つだけあります。
1. 出力は必ず自分の目で確認する。特にセキュリティに関わるコード、お客様のデータを扱う処理、決済まわり。ここは一行ずつ読みます。読めない量を書かせないようにする、という言い方のほうが正確かもしれません。
2. 一次情報源を確認する。AIが要約した数字を、確認せずにお客様に見せることはしません。
3. 判断は渡さない。AIは作業を速くしてくれますが、「何をすべきか」を決めるのは人間の仕事です。これはお客様との関係でも同じで、私がAIを使っていることは隠しませんが、提案の責任は私にあります。
この3つを守っている限り、AIツールは「パワースーツ」として機能します。着ている人がどこへ歩くかを決められなければ、どれだけ強力なスーツでも意味がありません。
まとめ
2026年8月時点で、WordPress制作に使っているAIツールは、Claude、Claude Code、Cursorの3つです。1年前より減りました。
減った理由は性能ではなく、ツールを行き来するコストのほうが大きかったからです。
これから始める方に、ひとつだけお伝えするとしたら——まず1つ選んで、それだけで一本サイトを作ってみてください。比較記事を読み込んで最適なツールを選ぶより、そのほうが早く分かります。合わなければ、そのとき乗り換えればいいだけです。
そして、AIが速くしてくれるのは作業であって、判断ではありません。何をつくるべきかを決める工程は、これからも人間の側に残ります。そこが、いちばん面白いところでもあります。
よくある質問
まず1つだけ選んで、それだけで1サイト作ってみるのが最短です。比較記事を読み込んで最適な1本を探すより、そのほうが自分に合うかどうかが早く分かります。私自身もClaude・Claude Code・Cursorの3つに落ち着きましたが、最初から3つ揃える必要はありません。ツールを増やすほど、前提を説明し直すコストが積み上がります。
形になるところまでは作れます。ただし「誰に何を伝えるサイトなのか」という判断はAIには決められません。AIサイトビルダーは白紙から形にする速さが強みで、既存サイトの改善や込み入った要件には向きにくい面があります。設計と判断は人が持ち、実装をAIに任せる分担が現実的です。
複数ファイルにまたがる実装・リファクタリング・自動化はClaude Code、すでに動いているコードの一部分をピンポイントで直すときはCursor、という分け方をしています。「全体を作る」のか「一箇所を直す」のかで選ぶと迷いません。
おすすめしません。AIは古い書き方を提案したり、ブロックテーマとクラシックテーマを混同したり、既存プラグインとの競合を考慮しないことがあります。ステージング環境で確認してから本番へ反映する手順は、AIを使っても省けません。
実装にかかる時間は確実に減ります。ただし制作費の多くを占めるのは「何を作るかを決める工程」なので、そこは大きく変わりません。浮いた時間を設計や公開後の改善に回せるかどうかで、費用対効果は変わってきます。
