先に結論
- 名刺交換した会社さまのサイトを、私は一社ずつ診断しています。今週は、27社を見てきた中で「いちばん象徴的だった1社」を、社名を伏せてお話しします
- そのサイトは、料金も、受けない仕事の基準も、驚くほど正直に書いてありました。ふつうは隠したくなることまで、全部
- なのに、たった一つだけ抜けていたものがあります。サイトを作った本人の「名前」です
- これは書き忘れではないと、私は考えています。自分のことを名乗るのだけが、どうしても照れくさい——腕のいい人ほど、ここでつまずきます
「他社さんに頼んでいただいても、まったく構いません」
診断していて、こんな一文をトップページに堂々と書いている方に出会うことは、めったにありません。ふつうは「ぜひ当社に」と書くところです。
先日、名刺交換させていただいた一人の職人肌の専門家のサイトが、まさにそうでした。今日は、その1社のことだけをお話しします。数の集計ではなく、たった1社。でもこの1社に、私がこの仕事で伝えたいことの全部が詰まっていました。
そのサイトは、何がそんなに「正直」だったのか
料金を金額で公開し、受けない仕事の種類まで明記し、「他社に頼んでも構わない」とまで書いてある。ここまで正直なサイトは、27社の中でも際立っていました。
順に挙げると、こうです。
- 料金が、金額で書いてある。「お問い合わせください」ではなく、いくらから、と数字で
- 「これなら作りません」と、断る基準が書いてある。既存のもので足りるなら、無理に作らせない、と
- 「大きな仕事は請けません」と、自分の限界を先に開示している
- よくある質問には、「他社に発注していただいても構いません」
読んでいて、清々しいほどでした。買う側がいちばん知りたいこと——お金の話、断られる可能性、この人の得意な範囲——を、聞かれる前に全部差し出している。信頼というのは、本来こうやって作るものです。
では、何が「もったいなかった」のか
これだけ他人には誠実なのに、肝心の「自分が誰か」だけが、サイトのどこにも書いていませんでした。名前も、サイトの正式な住所も。
気づいたのは、二つのことです。
一つ目:作った本人の名前が、どこにもない。
「作れる人に、直接相談するのが一番速い」。サイトの一番大きな見出しは、そう謳っていました。とても良いメッセージです。ところが——その「作れる人」が誰なのか、名前がどこにも書いていないんです。これまでの経歴は丁寧に語られているのに、署名だけがない。「直接相談」を勧めているのに、相談する相手の名前がない。ここがちぐはぐでした。
二つ目:サイトの正式な住所が、仮のままだった。
これは少し専門的な話になります。ウェブサイトには、検索エンジンやSNSに「これが本物の住所です」と伝えるための、裏側の設定があります。そのサイトでは、その設定が、作っている途中の仮アドレスのままになっていました。せっかく自分のドメイン(きちんとした住所)を取得したのに、サイト自身が、まだ仮の住所を名乗り続けている状態です。
名前も、住所も。他人のことはあれだけ率直に語れる人が、自分のことだけ、名乗れずにいた。 私はこの構図に、しばらく見入ってしまいました。
なぜ、正直な人ほど「自分の名前」だけ書けないのか
サービスや料金を説明するのは「相手のため」ですが、自分の名前を出すのは「自分のため」に見える。その一線が、誠実な人ほど越えにくいのだと、私は考えています。
私はこの仕事を長くやってきて、一つの傾向に気づきました。
本物の技術を持っている人ほど、自分を売り込むことに、どこか後ろめたさを感じる。 だから、腕と知名度が、皮肉なことに反比例していく。
このサイトは、その典型でした。料金を開示するのも、断る基準を書くのも、相手に判断材料を渡す行為です。だから、できる。むしろ得意なくらいです。
ところが「私は◯◯という者です」と名乗るのは、少し性質が違う。それは相手のためというより、自分を前に出す行為に感じられる。「作れる人に直接相談を」と書けても、その「作れる人」に自分の顔と名前をはめ込むのは、照れくさい。だから、空欄のままになる。
これは、怠慢ではありません。サービスにあれだけ誠実な人が、名前だけ手を抜くはずがない。 むしろ逆で、誠実さが自分に向くと、途端に口が重くなる。その表れなんです。
何をすればよかったのか
新しく作るものは、何もありませんでした。「名前を一行足す」ことと、「サイトの住所を正しいものに直す」こと。この二つだけです。
打ち手は、拍子抜けするほど単純でした。
- 名前を、名乗る。 「作れる人に直接相談を」の、その「作れる人」の隣に、名前を一行。経歴はもう十分に書いてあるので、そこに署名を添えるだけ
- 住所を、正しいものに直す。 裏側の設定を、仮アドレスから、取得した本当のドメインに書き換える。作業としては一箇所の修正です
どちらも、コピーを書き直す話でも、デザインを作り直す話でもありません。すでにある中身に、「これは私が作りました」と署名するだけ。 明日にでも動かせるものでした。
自分のサイトで確かめる3つの問い
トップページを、初めて来た人のつもりで開いて、確かめてみてください。
- このサイトは「誰が」やっているか、名前で分かりますか(会社名ではなく、責任を持つ人の名前)
- 「相談してください」と書いてある相手の顔や名前は、そこにありますか
- 問い合わせ先や住所が、仮のまま・借り物のままになっていませんか
一つでも「あれ?」と思ったら、あなたのサイトは、中身は本物なのに、名乗りだけが足りていないのかもしれません。
腕の問題ではありません。名乗る勇気の、ほんの一歩の問題です。
よくある質問
逆のことが多いです。とくに「直接相談できます」「作った本人が対応します」と謳う場合、名前がないと約束が宙に浮きます。誰が責任を持つのかが見えるほうが、「この人になら聞ける」という安心につながります。会社の規模ではなく、顔が見えることが信頼の材料になる時代です。
その感覚を持っている方は、まず自慢にはなりません。名乗ることは、自分を大きく見せる行為ではなく、「何かあったら、私が責任を持ちます」という表明です。料金や断る基準を正直に書ける方なら、名前を書くことも、同じ「相手への誠実さ」の延長だと考えてみてください。
大事です。検索エンジンやSNSは、その設定を見て「どのアドレスが本物か」を判断します。仮のアドレスを名乗ったままだと、取得した自分のドメインが正しく評価されなかったり、シェア時に見慣れないURLが出たりします。ただし影響の度合いは、実際のデータ(検索の管理画面など)を見て切り分けてから判断します。
数の集計は前回まででお伝えしてきましたが、今回の1社は、私がこの仕事で大事にしていることが、そのまま形になっていたからです。**他人には誠実なのに、自分のことだけ名乗れない。** これは業種も規模も関係なく、腕のいい方の多くに共通する構図です。だから、あえて一社を深く見ました。
最後に
このサイトを診断して、私が感じたのは、責める気持ちではなく、むしろ共感でした。
サービスも、料金も、断る基準まで、ここまで正直に書ける人が、自分の名前だけ書けずにいる。 その奥ゆかしさが、私にはよく分かるんです。
でも、初めて訪れた人には、その事情は伝わりません。「作れる人に直接相談を」と言われても、その人が誰か分からなければ、一歩を踏み出せない。一番いい仕事をしている人が、自分を名乗らないせいで、選ばれる手前で止まってしまう。
もし今、あなたのサイトも「中身はあるのに、なんとなく問い合わせが来ない」なら、それは腕の問題ではないかもしれません。あなたが誰なのかが、まだ相手に伝わっていないだけかもしれない。
ご自身のサイトで確かめてみて、それでも「よく分からない」となったら、30分だけお時間をください。一緒に画面を見ながら、あなたのサイトが「誰の顔」で立っているかを、お話しします。売り込みはしません。
ご相談は完全無料・オンライン(平日 8:00〜16:00)
→ https://shinichi-miyazaki.website/free-consultation/
*宮崎真一(ブランドマネージャー・ウェブ解析士)*
*良いものなのに選ばれない、を変えていく。*
