WordPressの翻訳コントリビューションに参加してきました|やり方と、続けている理由

WordPressの翻訳コントリビューションを解説する記事のアイキャッチ画像。「翻訳という、いちばん近い入口。」というコピーとAからあへの変換モチーフ

2026年8月23日(日)、千葉市生涯学習センターで開かれた Chiba WordPress Meetup「WordPressにコントリビューションその6 翻訳で貢献しようPart4」 に参加してきました。テーマは翻訳。日本語翻訳の第一人者である三宅伊都子さんの指導のもと、「Dinosaur Game」というプラグインの日本語訳を担当しました。

翻訳コントリビューションに参加するのは数回目です。それでも毎回、教わることがある。この記事では、コントリビューションとは何なのか、どんな種類があるのか、翻訳は具体的に何をどうやるのかを、手順まで含めてまとめます。「気になってはいるけど何をすればいいか分からない」という方の、最初の一歩の地図になれば嬉しいです。

そもそも「コントリビューション」とは何か

WordPressは、世界中のウェブサイトの4割以上で使われているオープンソースソフトウェアです。ここで大事なのは、WordPressにはそれを作っている「会社」が存在しないということ。

Windowsを作っているのはマイクロソフトです。ではWordPressは ?  答えは「世界中のボランティア」。誰かが機能を書き、誰かがバグを見つけ、誰かがそれを各国語に訳している。その積み重ねで、私たちが毎日使っている管理画面が成り立っています。この「返す側にまわる行為」の総称がコントリビューション(貢献)です。

入口は20以上ある

「貢献」と聞くと、PHPを書いてコアにコードを投げる姿を想像しがちです。私もそうでした。実際にはWordPressプロジェクトには Make WordPress と呼ばれるチームが20以上あり、それぞれ役割が違います。

チームやっていること
CoreWordPress本体の開発(PHP / JavaScript / CSS)
Design管理画面のUI・UX設計、ユーザーテスト
Accessibility障害のある方が使えるかの検証と改善
PolyglotsWordPressの多言語翻訳
Support公式フォーラムでの質問対応
Documentationドキュメント・ハンドブックの執筆
CommunityMeetup・WordCampの運営
Testリリース前バージョンの動作検証
Photos公式フォトディレクトリへの写真提供・審査

ほかにもThemes / Plugins(公式ディレクトリの審査)、Training、Mobile、Meta、CLI、Playgroundなど、専門も難易度もばらばらの入口が並んでいます。つまり、コードが書けなくても貢献できる。フォーラムで一件答えるのも、写真を一枚提供するのも、立派なコントリビューションです。

今回のテーマは、この中の Polyglots(翻訳) でした。

翻訳が「最初の一歩」に向いている理由

環境構築がいらず、ブラウザとWordPress.orgアカウントだけで始められる。1文字列だけ訳して終わってもいい。訳した文字は数日後に公式サイトへ反映される。翻訳が入門編としてよく勧められる理由です。

私にとって大きかったのは、その先でした。クライアントに「このプラグインが便利ですよ」と勧めるとき、説明文が英語のままだと、それだけで一歩引かれてしまう。その壁を、自分の手で低くできる。

今回指導してくださったのが、翻訳コントリビューターの 三宅伊都子さん。「日本で翻訳コントリビューションと言えば三宅さん」という存在です。主催はChiba WordPress Meetupの渡邉厚夫さん(たいちょ渡邉さん)と三宅さん。独学なら確実に迷子になっていた場面で、その場で「それはこう訳します」と教えてもらえる。この距離の近さが、Meetupに足を運ぶ最大の価値でした。

当日の流れ|Dinosaur Gameを翻訳する

今回担当したのは Dinosaur Game(作者 : Chris David Miles)。Google Chromeでオフラインになったときに出てくる、あの恐竜が走るゲームを、ショートコード [dinosaur-game] ひとつで自分のサイトに埋め込めるプラグインです。404ページに置いておくと、訪問者に「見つかりませんでした」以外の何かを渡せる。実務でも遊べる、いい題材でした。

手順は大きく5ステップです。

1. WordPress.orgアカウントでログインする

フォーラム用に作ったアカウントがそのまま使えます。準備はここだけです。

2. translate.wordpress.org を開く

翻訳作業はすべてこの専用サイト(GlotPressというシステム)の上で行います。日本語を探して「Contribute Translation」へ。

3. プロジェクトを選ぶ

WordPress core(本体)/Themes/Plugins/Meta(ja.wordpress.org自体のテキスト)/Apps の5つから選択。今回はPluginsからDinosaur Gameを選びました。プラグインとテーマは「Stable (Latest Release)」を選ぶのが基本です。

4. 訳文を入力して提案する

未翻訳の文字列の「Details」を開き、日本語を入力して「Suggest new translation」を押す。ここが最初の勘所で、押した瞬間に公開されるわけではありません。あくまで提案です。

5. 翻訳編集者の承認を待つ

提案は GTE(一般翻訳編集者)/PTE(プロジェクト翻訳編集者) と呼ばれる権限を持つ方がレビューし、承認して初めて反映されます。

そして今、Dinosaur Gameの日本語ページを開くと、説明文もFAQも日本語で表示されます。

このプラグインを使うと、Google Chrome の恐竜ゲームを WordPress サイトに追加できます。

自分が触った文字が、公式サイトで動いている。この感覚は、想像していたより効きました。

つまずいたのは「英語力」ではなく「日本語のルール」だった

何度参加しても効いてくるのは、英語力より日本語のルールのほうです。日本語チームには詳細な翻訳スタイルガイドと用語集があり、訳文はこれに沿っている必要があります。

  • 英数字・記号は半角 — 「!」や「?」も半角
  • 英字の前後には半角スペース — 「Google Chrome の恐竜ゲーム」
  • 数字の前後にはスペースを入れない — 「横640ピクセル」「33件」
  • 括弧は半角、外側にスペース、内側は不要 — 「言語コードは ja (日本語)。」
  • カタカナの長音は4文字以下の語に付ける — ユーザー、サーバー/コンパイラ
  • 「ください」「すべて」はひらがな — 「下さい」「全て」は使わない

そしてハンドブックには、こう明記されています。

機械翻訳の結果を精査せずに使った翻訳および翻訳の提案はしないでください。

AIに投げて出てきた訳をそのまま提案する行為は、明確に推奨されていません。生成AIを日常的に使う側の人間として、この線引きは持ち帰るべき作法だと感じました。

一つひとつは些細に見えます。ただ、世界中の何万という文字列がこのルールで統一されているからこそ、私たちの管理画面は読みやすい。細部の統一が、全体の品質になる。 ウェブ制作の現場とまったく同じ話でした。

一人工房の私が、なぜ貢献に時間を使うのか

私はWordPressで中小企業のサイトを作り、育てることを生業にしています。売上も、名刺の肩書きも、クライアントからの信頼も、元をたどれば全部WordPressというソフトウェアの上に乗っている。そのWordPressは、誰かが無償で時間を使ったから今の形になっている。

この構造を知りながら受け取るだけでいるのは、据わりが悪い。日曜の午後2時間半を出すくらいのことは、してもいいのではないか。続けているいちばん素直な動機はそれです。

これまでも翻訳のほか、Meetupでの登壇や運営、公式フォトディレクトリへの写真提供といった形で少しずつ関わってきました。どれも大きな貢献ではありません。ただ、続けていると見えてくるものがあります。

事業への跳ね返りも確かにあります。ドキュメントを訳す行為は、その機能の仕様を一字一句読むということです。解説記事を10本読むより正確な理解が残る。そして、現場で手を動かしている方々と同じ机で作業をする。この関係は検索では手に入りません。

「作って終わり」にしない、とクライアントに言い続けている以上、自分が使っている道具も「使って終わり」にはできない。理屈としては、それだけの話です。

これから始めたい方へ

必要なものは3つだけ。WordPress.orgアカウントブラウザ1時間です。translate.wordpress.org を開いて、自分が実際に使っているプラグインを探してみてください。未翻訳の文字列が残っているものは、驚くほどたくさんあります。

そして可能なら、Meetupのコントリビューションイベントに出ることを強くおすすめします。分からないところをその場で聞ける価値は、独学の何倍も大きい。全国のWordPress Meetupで、同種の会が定期的に開かれています。

ご自分のサイトについて「どこから手をつけるか」で止まっているときも、やることは同じで、まず今の状態を1つずつ見るところからです。30分の無料診断で画面を共有しながらご一緒に確認します。

おわりに

WordPressは、誰かが時間を出したから今の形をしています。派手なコードを書けなくても、月に一度、自分が使っているプラグインの未翻訳を10行潰す。その程度のことで十分に成立します。

大事なのは、名乗っていることと実際にやっていることの間に隙間を作らないこと。そこが揃っているかどうかは、たぶんクライアントにも伝わります。

よくある質問

英語が得意でないと翻訳コントリビューションはできないか?

必須ではありません。難しいのはむしろ日本語側で、翻訳スタイルガイドと用語集に沿って自然な日本語へ整える作業が中心になります。1文字列ずつ進められますし、提案した訳文は最終的にGTE・PTEのレビューを通るため、いきなり公開されることもありません。

翻訳した内容はすぐ公開されるか?

いいえ。「Suggest new translation」で登録されるのは提案の状態で、翻訳編集者(GTE/PTE)が承認して初めて反映されます。今回訳したプラグインも、承認を経て日本語ページに反映されました。事前にスタイルガイドと用語集を読んでおくと、承認されやすくなります。

機械翻訳やAIを使って翻訳を提案してもよいか?

日本語チームのハンドブックには「機械翻訳の結果を精査せずに使った翻訳および翻訳の提案はしないでください」と明記されています。下訳として使う場合も、必ず自分で内容を確認し、翻訳スタイルガイドに沿って修正したうえで提案してください。

制作会社やフリーランスを選ぶとき、コントリビューションの有無は判断材料になるか?

絶対条件ではありませんが、ひとつの目安にはなります。コントリビューションを続けている制作者は公式ドキュメントを一次情報として読む習慣があり、仕様変更やプラグインの日本語化状況を早く把握できます。制作後の運用まで任せる相手を選ぶときほど、効いてくる違いです。